ホワイトデイ
「海流、今朝起きたらこれがあったんだが…」
そう言ってウィリアムが見せてきたのは小さな小包。
プレゼント用にラッピングされたそれはとても見覚えのある物。
「…それは、俺が置いた」
「お前が?今日は何かの記念日か?」
小首をかしげる彼に、まさか今日のイベントを知らないのではという疑念が持ち上がる。
「まさか…知らないのか?」
「何をだ」
眉を顰める彼に確信を抱く。
ウィリアムはホワイトデイのことを知らないのだ。
この様子ではバレンタインも怪しい。
だが、俺の口から改めて説明というのも気恥ずかしいものがある。
「何をどもついている」
「あ、いや…」
そのままを言えば、何か勘違いされそうだ。
変な気を持たせないような伝え方を考える。
「…き、今日は、普段世話になった人への…感謝の意を伝える日だ」
我ながら苦しいと思う。
「感謝の意…か」
「そうだ。だからそれは、俺の日ごろの感謝の印だ」
若干無理がある気がするが、ウィリアムは納得したようだった。
このような文化はやはりウィリアムの母国ではないのかもしれない。
…または単にウィリアムが疎いだけか。
「これ、今開けてもいいか?」
「えっ…べ、別にいい…が」
俺の返事を聞き終わる前にウィリアムは包装を開けていた。
出てきたのは深い黄金色の懐中時計。
このご時世、腕時計ではなく懐中時計というのは古臭すぎるだろうか。
「…その懐中時計なら、毎日ねじを回していれば何十年でも使えるし、電池切れも起こさないし…、いいかと思ったんだが…」
ウィリアムはじっと懐中時計を見ていた。
何も言わない彼の様子に若干不安になる。
「あ…やはり、手入れが面倒だろうか…」
首の後ろをこすり、目を伏せてしまう。
「ああ、悪い、そうじゃない。ただ…、お前からの贈り物がうれしくてだな」
はにかむ彼に、こちらもうれしく感じた。
「それに、毎日お前からの想いを感じながら手入れできるだろう?」
「なっ、」
思わぬ言葉に頬が熱くなるのが自分でもわかる。
ウィリアムの方を見れずにいるが、それでも彼の顔が笑っているのが目に浮かぶ。
「…ありがとうな」
「…俺の方こそ」
絞り出した声はか細く、ウィリアムに聞こえたのかさえわからない。
だが嬉しそうな彼を見ることができてよかったと思う。
後日、詳細を盗み聞きしていた眞音がウィリアムに本来のバレンタインやホワイトデーを着色した説明をし、
海流が追い込まれたのはまた別の話である。